不登校を語るつどいBaobab 2016529日 浦安市民プラザWAVE101 市民練習室)

 不登校の親が越えなければならない5つの関門

  〜不登校・ひきこもり・いじめにどうのように対処したらよいか〜 

                         野村俊幸(社会福祉士 精神保健福祉士)

【講師自己紹介】

  昭和25321日北斗市(旧上磯町)出身、北海道大学文学部卒業。昭和48年北海道庁奉職、

  渡島・檜山・胆振各支庁、道本庁生活福祉部・保健福祉部、児童自立支援施設大沼学園、函館児童

  相談所、倶知安保健所を経て、平成20年3月渡島保健所子ども・保健推進課長で退職

  現在、西野学園函館臨床福祉専門学校及び北海道教育大学函館校非常勤講師、一般財団法人北海道

  国際交流センター(はこだて若者サポートステーション)相談支援員

《主な活動》民生委員児童委員  函館市福祉政策推進会議委員  函館地方精神保健協会理事

  登校拒否と教育を考える函館アカシヤ会代表    道南ひきこもり家族交流会「あさがお」事務局

 「昴の会」〜不登校をともに考える会運営委員      函館圏フリースクールすまいる副代表

《著書》「わが子が不登校で教えてくれたこと・改訂版」文芸社(200911月発刊、1000+税)

   「カナリヤたちの警鐘〜不登校・ひきこもり・いじめ・体罰へはどのように対処したらよいか」

      文芸社セレクション(文庫版・700+税、20145月発刊)

《連絡先》メール:tnomura@sea.ncv.ne.jp4

 

1 私の基本的なスタンス

  子どもが長期の不登校だった親(当事者)としての立場

 □ ソーシャルワーカー(福祉専門職)としての立場

 

2 不登校の現状

(1)小中学生の不登校が実数・出現率とも2526年度と連続して増加 【別紙1参照】

   小中学生合計122,897人(1.21%)、小学生25,864人(0.39%)、中学生96,786人(2.76%)、

      高校の不登校生徒数55,655人(1.67%) 高校中退者数 59,923人(1.7% 

  千葉県:不登校小中学生5,237人(1.07%) 小学生1.160人(0.36%)中学生4,077人(2.46%)

             高校の不登校生徒数3,393人(2.22%) 高校中退者数 2,100人(1.3%

 

(2)学校統計上の不登校小中高校生は全国で約17万人だが実態はこれよりはるかに多いのでは?

 

(3)要注意! 学校の長期休み明けに子どもの自殺が急増!【別紙2−1・2参照】

 

 

3 わが家の不登校体験と相談・支援の基本

(1)長女の体験から〜追いつめる

 

(2)次女の体験から〜受け止める

 

(3)保護者が抱える疑問や悩みを理解する〜例会や相談場面でよく出される親の疑問や悩み

@ 学校に行かない理由を聞いても話してくれない

A 勉強を全くしないので学力が心配

B 進学や将来の道は大丈夫だろうか

C 学校に行かないと人間関係がつくれない?

D「学校に行く」と言っていても、朝になると行けない…            

E 昼夜逆転している 

F 朝の声かけはどうしたら?

G「行かなくていい」と言ってるのに元気にならない

H 心の底から「休んでいい」と言えない

I 休ませたら元気になってきたけれど外には出ない

J 学校に行かないならせめて別の何かをしてほしい

K 家でゴロゴロしているばかり

L ネットやゲームに夢中で大丈夫?

M 携帯やネットを取り上げた方がよいだろうか?

N インターネットでのトラブルもあるみたいだけど…

O 先生の家庭訪問にどう対応したら?

P 欠席の連絡が心苦しい

Q 給食費やPTA会費の支払いをどうする?

R 制服の準備はどうしよう

 

(4)学校と先生方にお願いしたいこと〜先生方との話し合いでよく出される疑問や意見について

@「誰のため、何のため」の支援なのか検証を

A 学校のスケジュールで振り回さないで

B 家庭訪問は慎重に

C「家庭訪問で復学できた」という報告も聞きますが

D「友だちのお迎え」は危険です

E「怠学」「遊び型」などの『分類』は有害無益です

F「非行につながるのでは」という心配について 

G「〜しか行けない」ではなく「〜に行く」という進路指導を

H 辛い状態にある子どもには「指導」より「寄り添う」ことを

I「親の会」などとも積極的なつながりを

 

4「ひきこもり」の理解と支援について

(1)「ひきこもり」とは何か

   @「ひきこもり」は、生物学的・心理的・社会的要因などがさまざなに絡み合い、それまでの生活

スタイルを維持するのが困難になって社会的な参加の場面がせばまり、就労や就学などの自宅以

外での生活の場が長期にわたって失われている状態(現象概念)で、診断名ではない。

  A ひきこもること自体は異常なことではなく、人生の途上で誰にでも起こりうる生活場面のひとつのプロセス。

きこもることで強いストレスを避け仮の安定を得ているが、そこから離脱が難しくなって本人が苦しみ、家族関係も悪化

することもあるので、何らかの支援が必要となる。

   B 厚生労働省の指針では、上記のような状態が6カ月以上続くと「ひきこもり」とみなしている。

 

(2)なぜ「ひきこもり」相談支援に関わったのか

  @ 高校・大学以降の不登校や中退、「中学卒後の行き場がない」という相談が増えてきた。

  A 成人期以降も対人関係等が辛く、社会との関わりができなくなるという相談も増えてきた。

     → 道南ひきこもり家族交流会「あさがお」の立ち上げ(1993年)

 

(3)「ひきこもり」をめぐる動向

  @「社会的ひきこもり」に関する相談・援助状況実態調査報告(平成15年)

   国立精神・神経センターの調査結果(平成14年に全国の精神保健センターおよび保健所に来所

   相談にきた3293の事例) 平均年齢:26.7歳、男性:76.9%、女性:23.1 

                          小・中・高・大学いずれかでの不登校経験者:61.4 

  A 内閣府による「若者の意識に関する調査」結果(平成22年7月)

     全国1539歳の男女5千人を対象に調査〜ひきこもり1.79%→全国で696千人と推計

     「ひきこもり」になったきっかけ〜仕事に関する理由:44%、不登校関連:18.7

       現在は「不登校要因」よりも「仕事要因・就活要因の方が多い

       ・1位:「職場になじめなかった」23.7%、「病気」23.7 

     ・2位:「就職活動がうまくいかなかった」20.3

     ・3位:「不登校(小中学校)」11.9%、「人間関係がうまくいかなかった」11.9

     ・4位:「大学になじめなかった」6.8

 

(4)相談支援の基本:親の悩みや気持ちの理解〜例会や相談場面でよく出される親の疑問や悩み

@ 高校・大学中退がひきこもりにつながる?

A 子どもとコミュニケーションが取れない

B 強いこだわりなど気になる行動が目立つ

C「死にたい」と度々もらすので心配

D 家庭内暴力にどう対処すればよいか

E 精神疾患や発達障害かもしれないが受診を拒否する

F「サポステ」や相談機関を勧めるが乗ってこない

G「家族会」への参加をどう伝えれば? 

H「お小遣い」を渡す必要はあるだろうか?

I 要求がエスカレートしたらどうしよう

J 親も高齢化、面倒をみれなくなったらどうすればよいだろうか

 

(5)支援のあり方と課題 

   @「ひきこもり」支援で留意すべきこと

    ひきこもることの意味本人の体験や気持に寄り添って一緒に考える。

     本人にとって必要なプロセス、大切な時間という視点〜「否定的眼差し」は厳禁 

    ラベリングの危険性に留意→不適切な「引き出し」による悲劇や犯罪の発生

     今の状態を固定的に見ない →「往路・滞在期・復路」に応じた関わりが大切に

   □ 不登校との関係について、「不登校を早く治さないとひきこもりになる」と短絡的に考えな

         い。むしろ、不登校への対応の誤まり(十分に不登校できなかった、安心して不登校できなか

         った)から、ひきこもりへと追い込まれるという場合が多い。

    精神疾患が背景に考えられる場合は、「ひきこもり」という括りによるではなく、病状に応じ     た適切な治療が望ましいが、

周囲が初期の「ひきこもり」に対し不適切な対応したために、

    二次障害として精神疾患に追い込まれる場合もあるので、慎重な対応が求められる。

   A「ひきこもり」と就労支援 【別添「北方ジャーナル」記事 参照】 

    地域若者サポートステーションの役割と課題

    居場所や中間就労の場づくり、多様な就労支援の充実

 

 

5 ソーシャルワークによる関わりの大切さ

(1)ソーシャルワークの定義ソーシャルワーカー倫理綱領2005年)

   @ ソーシャルワークの専門職は、人間の福利(ウェルビーイング)の増進を目指して社会の変革を

        進め、人間関係における問題解決を図り、人びとのエンパワーメントと解放を促していく

   A ソーシャルワークは、人間の行動の社会システムに関する理論を利用して、人びとがその環境

       と相互に影響しあう接点に介入する。

  B 人権と社会正義の原理は、ソーシャルワークの拠り所とする基盤である。

(2)ソーシャルワークの役割

  「人間が人間としてより良く生きる」ための思想であり実践的理論であり方法論なので、

社会福祉分野に限らず人間生活の全ての分野に生かすことのできる内容が数多く含まれている。

   → ソーシャルワークの活動分野の広がり〜子育て、教育、司法、労働分野など

 

(3)ケースワークの原則(バイステックの7原則)を生かす

  原則1「クライエントを個人としてとらえる」(個別化

  原則2「クライエントの感情表現を大切にする」(意図的な感情表現

  原則3「クライエントに接する人は自分の感情を自覚して吟味する」(統制された情緒関与

  原則4「クライエントを丸ごと受けとめる」(受容

  原則5「クライエントを自分の価値観に基づいて非難しない」(非審判的態度

  原則6「クライエントの自己決定を促し尊重する」(自己決定の尊重

   原則7「クライエントの秘密を保持して信頼感を醸成する」(秘密保持

 

  子どもの不登校・ひきこもりに直面した保護者が越えなければならい「関門」に即して考えると…

【第一関門】子どもが「今は学校に行くのがとても辛い」「今は動くことができない」ことを認めて、

「とりあえず」でも「仕方なく」でもいいから「学校を休んでいいよ」「仕事は無理しなくていよ」と言えるかどうか  受容の「入り口」に立つ

 

【第二関門】「いつまで休ませればいいのだろうか」と焦り出す気持ちを抑えることができるかどうか

非審判的態度受容することが大切に〜原因を冷静に考えることは大切だが「焦って原因探しに走り回る」ことは逆効果

 

【第三関門】子どもが元気になると「心がざわつく」が、ここをコントロールできるかどうか

          子どもの意図的な感情表現を実現するためには、親の統制された情緒関与が不可欠

 

【第四関門】「進学問題をどうするか」「就職をどうするか」が大きな岐路に

       〜「いろんな道がある」と思えるかどうかがポイント

          わが子でも、個別化という視点で関わることが必要

 

【第五関門】「子どもの人生は子どもに委ねる」と腹を括ることができるかどうか→自己決定の尊重

 

 

6「いじめ」への対処

(1)「安全確保=逃げること」を最優先に!【別紙3−1・2 参照】

    @「いじめ」によるダメージを大きさを決して軽く考えないでください!

  A そのときだけではなく、大人になってからも様々な深刻な影響を及ぼします!

 

(2)小川中学校いじめ自殺裁判の教訓(平成21216日 福島地裁いわき支部判決)

    昭和60年にいわき市立小川中学校3年生の男子生徒が同級生からの激しいいじめにより自殺      し、遺族が学校設置者であるいわき市を被告として損害賠償計8300万円を請求した民事訴訟

   @ 自殺の主因を悪質ないじめと認め、学校側の安全保持義務違反を認定

  A 学校は生徒や保護者からいじめの具体的な訴えがあれば、軽視することなく対処すべき義務      があり、場合によっては被害者の登校を控えさせる

   B 過失相殺 □ 被害者につき40%の過失(せめて登校拒否をするということさえできなかったのか)

         □ 登校させた保護者につき30%の過失(被害者の逃げ道を狭め、窮地に追いやった)

             学校側に30%の過失

 

(3)知覧町いじめ自殺裁判の教訓(平成14128日 鹿児島地裁判決)

    @ 鹿児島県知覧町の中学3年男子生徒が集団暴行などのいじめにより自殺したことについて、

   両親が加害者5人と学校設置者の知覧町に損害賠償を求めていた民事訴訟で、いじめの事実を

   全面的に認め、5人の元生徒に4483万円、知覧町に1320万円の支払いを命じた。

  A 原告両親は、自殺の前日に子どもから被告生徒らに暴行を受けていることを聞いていたが、    加害者とその両親が原告宅を訪問し、

形ばかりの仲直りで解決したと考え、自殺の朝にも学校に行く

   ように説得したことなどを「原告両親の過失」と認定し、損害賠償額から4割を過失相殺で減額

 

7 今後の不登校・いじめ対策の取り組みへの提言

(1)安心して学校を休める環境づくりを最優先に【別紙4「不登校の子どもの権利宣言」参照】

 

(2)いじめ・体罰の防止・救済の具体的な仕組みづくり

  @ 参考になる社会福祉施設の苦情処理委員会の仕組み

    A 「モンスターペアレント」という用語の危うさ

 

(3)不登校の子どもを「学校のカナリア」と受けとめる視点を

  @ 学校が「管理・競争」の強化に向うのを変えていく契機にもなるのでは?

    A 「環境との相互作用」を重視するソーシャルワーの方法論の大切さ

 

(4)ネットワークによる支援

  @ 学校の「抱え込み」「抱え込まさせ」過ぎの改善

  A ケアマネジメントの手法を生かす。

  B コミュニティワークの手法取り入れる〜地域福祉の視点

  C スクールソーシャルワーカーを活用する。

 

(5)「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案」

   (教育機会確保法案)の意義と課題 (今国会に上程中)

@     意義 「子どもの権利条約にのっとる」「本人の意思の尊重」「学校以外の場において行う多様な学習活動の重要性」

「休養の必要性」「夜間中学の充実強化」等が明示された。
実施施に際しての課題 「不登校児童生徒に対する教育機会の確保」が新たな管理強化につながらないこと、「フリースクール」等への支援についての具体化

 

8「体罰は絶対ダメ!」という教育・子育ての徹底

(1)学校の体罰は明白な違法行為(学校教育法第11条)

(2)体罰に頼る子育ては児童虐待の温床

 

発達障害の理解と支援について 

(1)発達障害が「増えた」のか?

   発達障害者支援法 第2条(定義)によれば、「この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、

学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。」

  「脳機能の障害」を持つ人が、そんなに短期間で増えるものでしょうか?

 

(2)障害者福祉の基本的視点〜環境との相互作用ソーシャルアクションの重要さ

                              →「発達障害」ではとりわけこの視点が問われる

 

(3)診断は目的ではなく、より良い支援を活用するための手段障害受容のサポートも重要

 

 

10 不登校・ひきこもりへの関わりのポイントのまとめ

(1)焦らない、子どもの声をしっかり聴く 先回りをしない。信じて見守る。信じて待つ。

       「小樽親の会」の合言葉〜「親はニコニコ、口チャック  【別紙5「Fonte:当事者手記」参照】

(2)否定しない・責めない 本人の成長に必要なプロセス。人生に無駄な体験はない。

(3)再登校を目的化しない 子どもが元気になることが目的。元気になって再登校する子もいれ

ば別の道を進む子もいて、どちらが良い・悪いの問題ではない。

(4)進路などについて正確な情報を得る ただし、本人に伝えるタイミングは慎重に。

(5)就労は大切な目標だが「自立=就労」と固定的に考えない

     就労は自立に向かうプロセスのひとつ。自己目的化すると、かえって行動を制約する。

(6)親自身が自分の楽しみや生甲斐を持つ 子どもばかりに気持ちを向けない。

                                           「母さん(父さん)元気で、留守が良い」

(7)自助(当時者)グループの大切さ  →「家族会」やフリースクール等との積極的な連携を

【別紙6「Fonte」記事、「道南地域の自助グループ等」参照】

    家族だけで抱え込まない     □ 語り合い気持を吐き出す〜カタルシス効果(浄化)

    子どもとの関わりを学ぶ     □ 進路選択や様々な支援等に関する適切な情報把握   

(8)諺や言い伝えに学ぶ

     急がば回れ       急いては事を仕損ずる       待てば海路の日和あり

   □ 馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない

     目は口ほどにものを言う           地獄への道は善意で敷き詰められている

(9)『終着駅は始発駅(北島三郎)

函館止まりの連絡船は 青森行きの船になる

希望を捨てるな 生きてるかぎり 

どこからだって出直せる 終着駅は始発駅